ドイツの働き方は「残業なし・有給消化率100%」といった理想的な環境として、日本でも注目されている。しかし、実際に日本人として働いてみると、労働文化・職場習慣の違いに多くのエネルギーを費やす必要がある。本記事では、ドイツで働く日本人が直面しやすい4つの壁とポイントを解説する。

17時に帰れるなんてパラダイス!と思われるかもしれませんが、その分精神的な苦労は多く、私の場合、ドイツで働いている方が脳疲労が出やすいです。
給与交渉:遠慮はNG、主張する力が鍵
日本人にとって最初の難関とも言えるのが給与交渉である。日本の会社では給与交渉の文化はないが、ドイツ企業では給与交渉はスタンダード。

そのため、ドイツに来た当初は、金額の相場や成果の程度など、相場観が分からず戸惑うことが多い。日本人はドイツ人と比較すると謙虚なことが多く、実際の自分の力量よりも遥かに少ない額を交渉しがちである。
ポイント:自分の実力・成果を根拠と共に提示し、希望年収を伝える。遠慮は禁物。
実際に交渉相手が要求を受け入れるか否かは相手の課題であるので、自分が気にする必要はない。ドイツ人を見ていると、「え、あなたそんなに働いているっけ?」という人でも堂々と交渉し、自分の権利を主張している。
謙虚であることは、キャリアにおいて不可欠であるが、海外においては、自分の成果に対して正当な報酬を求めることも、重要なスキルの一つである。
職務の線引き:自分の責任範囲を守備する文化
ドイツ企業では、自分の業務範囲、ジョブディスクリプションが明確に決められており、労働契約にもその趣旨が盛り込まれている。
ドイツに長期滞在している人なら一度は聞いたことのあるパワーフレーズ。
「それは私の仕事ではありません」
日本の職場でそんな言葉を発すれば、速攻アウトだが、ドイツでは日常茶飯事。
境界線をしっかり引いておかないと、自分の責任範疇にない仕事がどんどん自分のテリトリーに入ってくることになる。
日本では、課やチームのメンバーの仕事を手伝うことも多々あるが、ドイツでは、同僚の性質をよく見極める必要がある。相互に助け合う関係が構築されているなら問題はないが、そうでなければ、他人の仕事を手伝うことは避けた方が無難である。下手に責任を転嫁され兼ねないし、ドイツでは個々の守備範囲を守ることによって信頼関係が構築されているとも言える。
ポイント:助け合いの精神は時に誤解に繋がることもあり注意が必要
感情の制御:ドイツ人が冷たく見える理由
ドイツに長年住まわれている人はよく経験されていると思うが、ドイツ人は基本的に不愛想である。スーパーのレジでも、お店でも、親切に対応してくれる人に出会う確率は少ない。親切にしたところで損をするわけでもないのに、なぜ不愛想なのか。
感情に流されやすい人ほど、利用される可能性が高い社会であるから、というのが私の現時点での結論である。
これは職場においても言える。仕事とプライベートが明確に分かれているドイツの職場において、同僚や上司に対し、必要以上に親切にする必要はない。
挨拶や日常の会話は欠かせないが、必要以上に自分の感情をひけらかさないことが重要である。感情に左右されない人の方が信頼を得やすいこともある。
逆に、優しい人や愛想の良い人は、「感情に訴えて嫌な仕事を引き受けてもらおう」と利用される確率が高まる。

他人に対して親切な対応をしているのに、なぜか物事がうまくいかないという人は、親切にするポイント・場面を絞り、感情の線引をしてみるといいかもしれません。
日本においては、職場とプライベートを明確に線引きすることは難しい。同期や同僚は、友達や家族と同等という職場もあるだろう。ドイツにおいては、それは公私混同と見られる。
ポイント:ドイツでは感情に左右されない仕事ぶりが評価される
責任感のバランス:必要以上に責任を背負い込まない
管理職の場合は異なるが、役職のない社員の場合、自分の責任範疇以外のことに責任を感じる必要はない。日本人は一般的に責任感が強く、集団意識が強いため、チームのこと、会社のことなど、責任の枠外まで考えを巡らせることが多々ある。
本来、そうした意欲は評価されるべきものだろう。ただ、個々人が自分の責任範囲の仕事を充分に遂行した上でチーム・会社として問題があるのであれば、それは管理職が対処しなければいけない問題である。
ポイント:自分の責任範囲に集中すべし。
まとめ:自己実現は社外で
以上のことから学んだことは、ドイツにおいては、一つの職場をキャリアアップの場として見ない方が良いということである。
自分の責任範囲の業務に集中していると、その分野の知識は増えるかもしれないが、全体的な視野は狭まるし、成長する機会を失う。責任外のことをやれば、ポジション・給料は変わらないのに、仕事量だけが増えるという残念な結果になる。そのため、ドイツ人はキャリアアップのために転職という道を選ぶことがほとんどである。
仕事以外で自分の感情をオープンにさらせる場所を探すのもおすすめだ。仕事では感情をコントロールし、友人や家族、趣味の仲間とは気兼ねなく過ごすことで、心のバランスが整えられる。

ドイツで働く上で、カルチャーショックと苦労は避けられませんが、正しい知識と心構えさえあれば、柔軟に適応できます。
自分にとって本当に合う働き方を模索しつつ、転職や副業といった社外の選択肢も視野に入れると、ドイツでのキャリア戦略が立てやすいだろう。