「豊かさ」とは何か?最低賃金が上がるほど苦しくなるドイツの現実

社会・経済
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ドイツの最低賃金、数年で1.5倍に

最近ニュースで見た最低賃金(Mindestlohn)引き上げの見出しに、思わず目を疑った。

私が渡独した2020年当時、時給は9.35ユーロ。それが今や12.35ユーロ、2026年からは13.60ユーロ、さらに2027年には14.6ユーロになるという。わずか数年で1.5倍。円換算すれば2500円ほどだ。この数字を見たとき、素直に「すごい」と思った。つまり、資格を持たない人であれ、誰であれ、1時間働けばこの金額を得られるということ。私が学生時代にアルバイトしていた時は時給1000円やそれ以下なんて普通であったし、塾講師のアルバイトでも1500円から2000円だった記憶がある。学生で社会経験もないので、それが普通だと思っていた。

企業のリストラと雇用不安、広がる現場の混乱

では、実際の生活は、最低賃金引き上げにより豊かになるのだろうか?実情は真逆と言っても過言ではない。企業は人件費の高騰に耐えられず、リストラが続く。ドイツの大手企業も次々にリストラをしており、ニュースでも話題になっている。この不景気の状況で、どれだけの企業がこの人件費を支払う余裕があるのだろうか。とても疑問である。これまで安定した企業と言われてきた製造業大手や自動車メーカーでも何千人単位のリストラが行われている。

のどかな秋の風景からは想像できないほど揺れるドイツ社会

フルタイムのポストを新たに募集できない企業も多い。お金がないからだ。そして、50代以降の人件費が膨らみすぎて、若い人の給料を削るしか術がないという企業も多い。メルセデスに勤めている私の友人は、社内で多額の退職金と引き換えに早期退職を勧告されている人が相次いでいると話していた。もちろん一流企業なので、退職金の額は相当な額に達すると思われるが、そちらの方が人員を雇用し続けるよりも安上がりということのようだ。ミュンヘンの職安には何百人という人が押し寄せ、対応が追いついていないという話も聞いたことがある。もはや、制御不能な状態だ。

生活コストの上昇と実感なき豊かさ

また、外食も高く、100ユーロがあっという間に消える。数字の上では豊かに見えても、実感はむしろ逆である。多くの日本人の方々がブログに書かれているとおり、外食の値段はドイツで跳ね上がっている。人件費、材料費、エネルギー代全てが高騰している。そして、税金も19%に戻った(コロナ禍は一時的に軽減されていた)からだ。

乳製品、特にバターの値上がりがすごい。

二人で外食に行けば、場所にもよるが100ユーロなどあっという間に消えていく。そして残念ながら、満足感はさほどない。日本であれば一人8000円もあれば、十分に満足いくものが食べられる。当然、ドイツ人の外食機会は激減する。どこの都市でも、外食産業の経営は苦しく、最近はお店が頻繁に変わることが多くある。

日本で食べた海鮮丼、これで2000円程度

ただ、ふと、以前訪れたレストランで思ったことがある。「あれ、この仕事、1人でできるのでは?」という場面に、2〜3人のスタッフが配置されていた。インフレや材料費だけでなく、こうした“非効率さ”も、物価上昇を後押ししているのではないだろうか。

平等の名の下に失われていく成長意欲

今のドイツは、あまりにも「平等」と「弱者への配慮」が掲げられすぎていて、国民の自律的な成長ややる気が削がれている。そして、そのような状況において経済は成長しない。もちろん、助けが必要な人達を助けることには賛成だ。生まれつき病気や障害がある人、何らかの事情で働けなくなった人にはサポートするべきである。

ただ、残念ながらこの世に平等というものはなく、ある程度の賃金の格差は存在する。それは、責任の度合いや資格の有無、業務の複雑性などに応じるものである。政治家と事務員の賃金が同じであれば、誰も政治家になんてならない。

最低賃金を引き上げ、社会の格差を埋めようとすればするほど、「頑張っても報われない」現象が起きる。そう感じた時、人は国を離れる。最低賃金を上げれば、格差は一時的に縮まるかもしれない。それと同時に、やる気も競争も失われていく。

最近のドイツ人流出については、こちらの記事にまとめたので、関心のある方はどうぞ。

そして、これは私の個人的な意見だが、最低賃金は「この状態から早く抜け出したい」と思わせる程度であるべきだと思う。人間、お金に困れば嫌でも努力をして、成長し、そこから這い上がる貪欲さが出てくるからだ。それが社会の原動力になる。しかし、今のドイツにはその「渇き」がなくなりつつある。

最低賃金の引き上げや生活保護の引き上げなどを続けていくと、どうなるか。努力をしてもしなくても、そこそこのお金がもらえるようになる。それであれば、わざわざ危険を犯して自らを変えたり、キャリアアップしようとしたりしなくなるだろう。これが今のドイツの現実だと思う。

自ら稼ぐ時代へ

最低賃金の引き上げとインフレのスパイラルがいつまで続くのか、先が見えない。今後、ドイツがコロナ前の物価水準に戻る可能性はとても低いように見える。そうなると、将来の備えや日々の暮らしにおいて、国や雇用主に頼らず、自分自身の力で生き抜く力を身につけることが重要になってくる。もはや通常の給料だけでは暮らしていけないという時代に差し掛かかりつつある。ドイツへの移住や海外就職を考えている人にとって、このブログが参考になれば幸いである。

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