今日は真面目に、ドイツのエネルギー政策についての配信となります。今回のテーマは昨年夏から論争となっていた「ソーラーパッケージ」について。ドイツでは、数年前から太陽光ブーム。ドイツの電力網には 300 万の太陽光発電設備が接続されていますが、2023 年前半の 4カ月の間に、住宅所有者だけでも前年の 2 倍に及ぶ数の太陽光発電システムが設置されています。
私の周辺でも太陽光パネルを設置した、あるいは設置する予定という話を最近よく聞きます。
これまでの経緯
昨年8月、連邦経済・気候保護省は、太陽発電戦略を実施するための法案改正をとりまとめ、ソーラーパッケージとして提示していました。これには、農地や駐車場など太陽光設備を設置する土地の二重利用の促進、官僚主義的で煩雑な行政手続きを削減することによる太陽光設備の導入促進する措置も含まれています。しかし、特に連立政権内(緑の党、FDP、SPD)で議論がまとまらなかったのが、「レジリエンス・ボーナス」と呼ばれる補助政策を盛り込むか否かという点。
「レジリエンス・ボーナス」とは、再生可能エネルギー法(EEG)制度の枠組みの中で、国内の太陽光発電工場の立ち上げ段階の間、欧州製部品の購入に関連する追加費用を、新しい太陽光発電システムの事業者に払い戻すことを想定したものです。これにより、バリューチェーン全体を通じて長期的かつ包括的な供給契約を結ぶことができる。出力が1メガワットまでの新しい太陽光発電システムの場合、追加コストは、通常のEEG支払いに加えて支給されるボーナスによって補償されることが想定されていました。
この背景には、中国の過剰供給能力により、欧州大手太陽光メーカーは苦戦を強いられている事情があります。スイスのマイヤー・ブルガー社、ドイツのSMAソーラー社も苦戦を強いられており、株価も最近は右肩下がりです。また、欧州委員会のネット・ゼロ産業法は、2030年までに、設定された気候変動目標を達成するために毎年必要とされる主要なグリーン技術の40%は、EU域内で生産することを求めています。問題はこれをどう実現するのか、ということ。低価格で製品を供給する中国メーカーとまともに競争しても勝てるわけがありません。そこで登場したのがレジリエンス・ボーナスでした。
緑の党、SPDはレジリエンス・ボーナス導入に賛成していたが、FDPはこれを否定。リンドナー財務大臣は、太陽光発電関連部品は(経済安全保障上重要な)ハイテク技術ではなく、ドイツの立地拠点やエネルギー転換の成功に何ら影響を与えるものではないとの否定的な見解を示してました。確かに、何でもかんでも税金を使って補助していたらきりがないというのは分からなくもありません。
ドイツの税金は本当に高いのです・・
そして、数か月の政府内での議論の結果、レジリエンス・ボーナスなしでソーラーパッケージが可決。連邦参議院での審議に移りました。
政府の決定を受けた太陽光業界の動き
ドイツ太陽光業界大手は、欧州から生産拠点を移動させる動きを見せています。マイヤー・ブルガー社は、ザクセン州フライベルクの工場を閉鎖する準備を進おり、米国での生産を拡大する予定であると発表しています。また、ヘッカート・ソーラーやソーラーワットも、減産を発表しています。特に、これらの太陽光産業が集中しているドイツ東部のザクセン州やザクセン・アンハルト州の政府関係者は、これら大手企業の進出が地元の雇用に繋がっていることもあり、今回の政権の決断に対して失望する声が上がっています。一方で、大手企業のドイツ国内からの撤退・縮小をチャンスとして見ているのが、新興企業です。
ハンブルクを拠点とするエネルギー新興企業1Komma5°は、ドイツに独自の太陽電池モジュール生産施設を設立したいと考えており、生産拠点は2024年からドイツ東部のブランデンブルクかザクセンに設置するとハンデルスブラット紙で述べています。これにより、2030年までに最大1000人の新規雇用を創出され、最初の拡張段階で年間生産量1ギガワット、2030年までに5ギガワットを達成することを目指します。同社は、既にユニコーンになりつつありますが、強制労働を伴わずに生産されたことが保証された太陽光発電モジュールを市場に投入しようとしています。PVのみならず、ヒートポンプなどエネルギー関連事業を手広く手掛けています。
1Komma5°含め、新興企業の今後の発展に期待ですね!
今後の勢力図に要注目
今回の政界の決断を受け、どれだけの企業がドイツ国内生産からの撤退を発表するのか、今後の推移が注目されますが、同時に、1Komma5°のような新興企業がどのような形でドイツ市場で勢力を伸ばし、いかに勢力図が変わっていくのかも要注目です。