「規律」と「自由」のはざまで生きる

異文化

最近、SNSでよく見かけるのが「自己啓発系」の投稿だ。ドイツでも例外ではなく、「朝5時に起きて瞑想」 「規律ある生活を送るためのヒント」といった内容が目につく。どうして今、こうした情報が増えているのか?その背景には文化的な違いや社会的な変化がある。

忍耐力のある日本人、自分の気持ちに素直なドイツ人

日本では、多くの人が中高生の時点で、すでにこうした「規律ある生活」を経験している。私自身も朝6時に起きて部活の朝練、日中は授業、放課後も練習、夜は宿題と塾の勉強——まるで修行僧のような毎日だった。

ナマケモノ
ナマケモノ

若いからこそ、成せる業、という感じですね。でもこの頃の経験が、自分の今を支えてくれているような気がします。

その当時はとても大変だったが、振り返ってみると部活の友達や先輩、後輩と過ごした時間は楽しかったし、大変なことがあっても逃げずに取り組むという忍耐力はついた気がする。そして、一度リズムを作ってしまえば、意外と普通にこうした生活を組み立てることができる。

規則正しく歩くガチョウがちょっと日本人のよう

ただ、その反面、疲れていても休めない、休むことに対する罪悪感のような極めて日本人的なメンタリティが根付いてしまったという負の側面もある。

これに対してドイツ人は、自分の気持ちをしっかり優先できる人が多いように思う。仕事が残っていても、長期休暇に入ってしまうし、体調が悪いと思えば熱がなくても病欠する。

もちろん個人差はあり、ドイツ人の中にも自分が何をしたいのか、自分の気持ちは何なのか、分からないという人は沢山いる。

ただ、一般的に、自分軸をはっきりと持つ教育をされてきた人が多いと言う印象だ。これが行き過ぎると、規律のある生活が送れなかったり、(嫌だという気持ちを優先するので)ここぞというときに踏ん張る力が足りなくなる場合もある。

最近の自己啓発系情報の背景には、こういったメンタリティが関係しているのかもしれない。

折れない心を育てるには?

そして、最近、ドイツ人の病欠が増えているのも、困難な場面に直面した際に、折れない心を持ってそれでも前に進む強さがないことに関係しているのではないか、という気もする。もちろん、心身の健康を大切にする姿勢は非常に重要で学ぶべきところが多い。

一方で、困難な状況において「前に進む力」をどう育むかという点も、今後の課題として浮かび上がっている。それは、目の前に起きている問題を、自分の問題として受け入れて向き合う強さ。

心理学者のアドラーが述べたように、自分の課題と他人の課題は分離すべきであり、他人は自分の課題を解決してくれない。今、自分が困難に直面しているのであれば、何等かの方法でそれを自分で解決するしか方法はないのである。

ドイツでは、政治・経済が曲がり角に直面していると言われている。その課題を解決するのは、他ならぬドイツ人(及びドイツに住んでいる人々)自身だ。政府が〇〇だから、政策が誤っているから○○というのは簡単だが、それを言ったところで状況は変わらない。

日独のハイブリッド型は可能か?

では、日本とドイツ、それぞれの文化や価値観の“いいとこ取り”は可能なのだろうか?

私自身、日本の「忍耐力」「集団の中での調和」「責任感」といった精神性はとても貴重なものだと感じている。

困難に直面した時でも、粘り強く取り組む姿勢や、他人を優先する気遣いは、日本社会の安定や効率性を支えてきた原動力でもある。これらは自分のアイデンティティとして自信を持って今後も持ち続けたい。

一方で、ドイツに暮らす中で学んだのは、「自分の気持ちを大切にすること」「自分の人生を自分で設計すること」、そして「他人と違っていてもいい」という価値観だ。

自分の考えや希望をはっきり言うことが尊重される環境は、心理的にも健康的だと感じる。

見学したシェアオフィスには自己啓発系の本が

この両方をうまく取り入れるにはどうすればいいのだろうか。鍵になるのは、「状況によって使い分ける力」だと思う。教育や職場のあり方にも、この「ハイブリッド型」の視点があってもいいのではないだろうか。


たとえば、日本の学校で「みんなと同じことをする」だけでなく、「自分の気持ちはどうか」「それを言葉にして伝える力」を育てる。

逆に、ドイツの教育に「地道な努力を継続する力」や「チームで動く意識」を取り入れる。そんなアプローチが、次の時代を生きる人たちに必要とされているのかもしれない。

文化や価値観に正解はない

文化や価値観に「絶対的な正解」はない。だからこそ、ひとつの国のやり方に固執するのではなく、複数の価値観を知り、その中から自分に合ったものを選び、場面ごとに使いこなす。それが、グローバル化した社会を生きる私たちにとって、最も実用的で、そして豊かな生き方ではないだろうか。

日本とドイツ、それぞれの文化から何を取り入れ、どう生きるか。皆さんはどう考えますか?