ドイツ人の流出の裏側とは?移住前に知っておきたい社会状況

社会・経済

先日、ドイツの経済紙ハンデルスブラットで興味深い記事を見つけた。ドイツ人のドイツ脱出の波がここ数年で激増しているという内容である。

しかも、移住する人の多くは大卒以上の高学歴人材であり、豊かさや安定を求めてではなく、挑戦や自由を求めて世界各地に移住しているとのことである。この記事から読み取れるドイツ社会が直面する課題を今回は紹介する。

変化を好まないドイツ人

ドイツ人は往々にして変化を好まない。昔、職場でドイツ語を教えてくれたドイツ人講師は、毎日昼食に同じサンドイッチを食べていた。現在の職場でも、毎日チーズを挟んだパンと同じ種類のヨーグルトを食べ続けている人がいる。

洋服も同様で、例えばジーンズにセーターなど、同じスタイルの洋服を毎日着回すドイツ人が多い。

これが日常の個人レベルに留まっていれば良いが、残念ながら社会レベルまで波及している。スーパーやドラッグストアに行っても、売られている商品は基本的にいつも同じである。

日本のように物凄いスピードで商品開発が進む国から来ると、ラインアップが変わらないお店が多いことに驚かされる。

仕事も同様で、これまで築き上げてきたものを淡々と毎日こなす。安定を好む人にとっては住みやすい国かもしれないが、挑戦や冒険を好む人にとっては退屈極まりない国である。若い人、特にやる気に満ちた人、社会を変えたい人、コンフォートゾーンから抜け出して成長をしたい人は、こうした環境を嫌い、海外で一から人生を新たに立ち上げている。

上記のハンデルスブラット紙では、タンザニアに移住したカップルのエピソードが紹介されていた。タンザニアではドイツに比べて社会保障やインフラが整備されていないが、その代わり助け合いの文化が根付いていて心地良いとのことである。生まれ育った国よりもタンザニアの方がアットホーム感があるという点も驚きである。

ルールの多い国、ドイツ

記事内でも触れられていたように、ドイツはルールが多すぎて自由が少ない、という声が上がっている。例えば、公園に行けば池の周りに「水泳禁止」と書いてある(こんなところで誰が泳ぐのか疑問だが)。

水泳禁止の札がかかっている池

日曜日や夜10時以降は「静寂の時間」(Ruhe Zeit)となり、洗濯機や掃除機を使ってはいけないなど、奇妙なルールが多い。

ちなみに、ドイツでは目的なく車を走行することは禁止されている。ドライブ中に警察に「どこに行くつもりですか?」と問われることがあれば、必ず行き先を回答しなければならない。日本では気分転換やストレス解消に目的なくドライブする人も多いかと思うので、ご注意を。

ルールを守らない人が多いため、ルールをさらに厳格にするためのルールが追加され、余計に複雑になる。私はそこまで気にならないが、人によっては、「ああしなければいけない」「こうしなければいけない」という規則が日常的にありすぎて、うんざりするらしい。

個人情報の扱いも非常に厳しい。病院で検査結果をメールで取り寄せる際には必ず文書にサインが必要である。無法地帯になるのは問題かもしれないが、ドイツのようにルールでがんじがらめになるのも大変である。

心理的壁を作るドイツ人

日本に何度も出張したことのあるドイツ人との会話で、居酒屋での食事スタイルが話題になる。

日本では皆でいくつかの料理を注文し、シェアして食べるが、ドイツでは基本的に料理をシェアする発想はない。自分の好きなものを注文し、一皿ずつ食べる。

ビアホールでは一皿料理をそれぞれ注文する

日本好きのドイツ人は冗談交じりに「ドイツ人は食事の時も自分の生垣を作っているよね」と言う。料理に限らず、ドイツ人は基本的に「自分は自分」という壁を作る傾向にある。

特に仕事においては、自分の仕事さえ終われば、同僚が苦労していても手伝わない。このさっぱりした態度を楽だと感じる人もいれば、連帯感がないと感じる人もいる。移住者の多くは、社会に連帯感が欠如していると感じているようだ。

外国人の移住先としての魅力

ドイツ人の流出が増加する一方で、外国人のドイツへの流入は増えている。そのため、人口自体は増えている。

多くの外国人にとって、(経済が悪化しているとはいえ)安定した経済・雇用と社会を有するドイツは魅力的な移住先である。例えば、同じエンジニア職でも東欧諸国とドイツでは賃金に大きな差があると言われている。

ポーランドのヴロツワフ

安定を求めてドイツに来る外国人と、安定に飽きて新たな挑戦を求めてドイツを去るドイツ人。成熟した先進国ならではのトレンドである。

まとめ

ドイツ社会は今、間違いなく大きな曲がり角に立っている。学歴や経済的に恵まれた人々が次々とドイツを離れ、新たなスタートを他国で切ることを計画している。

背景には、税負担や経済状況だけでなく、「変わらないドイツ」への大きな不満が見え隠れする。そして、行き過ぎた個人主義による孤独感や連帯感のなさも、国外移住する人々を後押ししてしまっている。

しかし、難しいのは、この「変わらなさ」や「個人主義」がドイツ人のメンタリティーと切り離せないという点だ。物質的な不満は政策によってある程度改善できるかもしれないが、アイデンティティに深く結びついた問題の解決は、恐らく極めて困難だ。

今後、ドイツ政府はこの状況にどのように対処していくのだろうか?これからも目が離せない。