ホームシックと聞くと、海外滞在が初めての人に見られる現象だと思っている人もいるかもしれないが、実は誰にでも起こり得る。私自身、以前駐在していた頃は日本の組織に勤めていたので、ホームシックになることはほとんどなかった。だが、数年前に移住してドイツの企業に勤めるようになった頃、ホームシックに悩まされるようになった。今日は当時の体験談とそんなときの対処法5つをご紹介したい。

ドイツ生活には慣れていたので、まさか自分がホームシックになるとは!と驚きでした。
コロナ禍での移住
私が移住した2020年秋はコロナ真っ只中。渡航して間もなくドイツではロックダウンが始まり、人と会うことすらままならない状況が続いていた。当時一番辛かったのは、「次にいつ日本に帰れるか分からない」という状況が2年ほど続いたこと。「帰国できない」という状況と自分の意志で「帰国しない」という状況には雲泥の差があることを痛感する日々だった。昔住んでいたことのある街で、言葉も理解でき、夫や友人もいるにもかかわらず、「寂しい」「不安」「帰りたい(のに帰れない)」という感情が募り、日々の生活を十分に楽しむことができずにいた。
そして、結婚と転職という人生の節目の行事が重なったことも、追加のストレスとなって押し寄せてきた。いずれもポジティブなイベントではあるのだが、環境の変化は知らず知らずのうちにストレスとなっていることも多い。特に転職にあたって、日独間の仕事の回し方の違いや同僚とのコミュニケーションの取り方、仕事の在り方の違いについて戸惑うことも多く、事あるごとに「日本に帰りたい」と夫に弱音を漏らしていた。
では、そんな時、どうすれば気持ちに折り合いがつけられるのか?簡単に実践できる5つの対処法をご紹介する。
対処法その1 まずは自分の感情を受け入れる
真面目な人に限ってありがちなのが、「ホームシックになってはならない、この場所で頑張らなければならない」と考えてしまうこと。自分の本当の感情に蓋をしてしまうと、その感情は消えるどころか、どんどんと大きくなって逆効果に。まずは「里が恋しい」と思っている自分の感情を受け入れることが第一歩。国際結婚でドイツに住んでいる人は、この点をパートナーに理解してもらうことが重要である。こうしたら良い、ああしたら良い、というアドバイスではなく、自分の気持ちを理解して欲しい、寄り添って欲しい、ということを伝えてみると良いと思う。一番身近で大事な配偶者に自分の気持ちを理解してもらえないのは辛いものがある。
対処法その2 気が済むまでどっぷり日本語に浸る
私は仕事でも家でもドイツ語が中心だったので、何となく気が休まらず疲れが溜まる日が増えていた。仕事後は日本人の友達とご飯に行ったり、オンラインで話したり、日本語の動画や書籍にひたすら浸ることで、脳内のバランスを保つように心がけた。そして、日本人にとって重要なのは食事。日本に帰りたいと思った日は、大事に保存してある茅乃舎の出汁で美味しい和食を作ることに。出汁と醤油の匂いを嗅ぐだけで幸せな気分になれるから不思議である。夫もなるべく日本語で話そうとしてくれ(片言だが)、肩ひじ張らずにゆったり過ごせる時間が増えたような気がする。
ドイツ語(や英語)で話していると、どうしても鎧を着て気を張っていないといけない。その分、日本にいる時よりも休息を多めに取る必要がある。母国語がここまで楽だとは正直日本にいるときには気が付かなかった。日本にいる時は7時間睡眠でも問題ないが、ドイツに戻ってくると8時間睡眠を取らないと脳みそが回復した気がしない。脳内疲労を起こす前に休息することが重要!
対処法その3 日本とドイツの長所・短所をリストアップする
私の中で効果的だったのは、日独の長所と短所をリストアップすること。リストアップしたものを部屋のどこかに貼っておくと良い。住むのにパーフェクトな国などは存在せず、日本にいても嫌なところはある、ということを視覚的に認識するのに役立った。そして、せっかくなのだから、住んでいる国の良い所にフォーカスするように心掛けた。ちなみに、私の場合は以下のようなリストになった。何よりも重要なのは、別にドイツを100%好きになる必要はない、ということ。自分の生まれ育った日本でさえ、100%好きでいるのは難しいだろう。ドイツに移住したからといって、何でもかんでも好きでいる必要はなく、嫌いなものも沢山あって良いのである。今住んでいる国は、あくまで、今の生活を成り立たせるための「手段」に過ぎない。そんなに深く悩む必要はないのである。

日本の長所・短所
やはり日本の長所はサービスと食事のクオリティの高さ。それに、娯楽施設も充実していて、とにかく生活環境が快適である。一方、仕事においては、(業界にもよるが)長時間労働をある程度覚悟する必要がある。そして男性は●●、女性は●●という性別観が未だに根強い気がする。
ドイツの長所・短所
私にとって食べることは最重要なので、食事砂漠のドイツはネガティブな要素に。一方、人目を気にせず自由にいられること、女性が働きやすい点、全体的にゆったりと暮らせる点はドイツの好きなところである。
対処法その4 思い切って里帰りする
人間、我慢は禁物である。帰りたいと思ったら、帰るべし。仕事の予定やお金の都合など、色々事情はあるとは思うが、一番大事なのは自分が幸せに暮らせることである。多少のお金や時間を使ってでも、自分の心の赴くままに帰るのがベストである。何らかの事情で帰れないときには対処法1~3で乗り切るしかない。美味しい和食屋さんに行くだけでも精神的に助けられる部分があると思う。

対処法その5 自分のコミュニティを作る
残念ながらドイツはソーシャルライフが充実した国ではない。中東から来た人やスペイン・イタリアなど南欧系の人は、口を揃えて「人間関係が希薄で寂しい」と言っている。仕事の人とかかわる機会は仕事以外あまりないし、趣味のコミュニティも場所によって様態は様々。ちなみにドイツ人にとって、職場の同僚が友達にもなり得るという日本の感覚は不思議に映るそう。もちろん例外はあり得るが、同僚の人とプライベートで飲みに行ったり旅行に行ったり、というのはあまりないらしい。
そんなわけで、大人になってからの友達はドイツではなかなか作りにくいと思う。そして、日本人と気が合うドイツ人を見つけるのは一苦労である。気が合う人がいたら、絶対に一生大切にした方が良い。多分、全人口の1%以下というレアなタイプの人だから。
私達夫婦は友達の数はそんなに多くない方だが、10年以上変わらず付き合える友人に出会えて本当に有難いと思っている。また、趣味と自己啓発の勉強会という新しいコミュニティを見つけ、ようやくドイツでも自分の居場所を作れたような気がしている。ご近所のコミュニティ、趣味のコミュニティ、勉強関連のコミュニティなど、自分の関心のあることを書き出して、勇気を出して覗きに行って欲しい。自分に合わなければ次から行かなければいいだけのこと。恥をかいたとしても何も失うものはない。
おわりに
コロナ、結婚、移住、転職という4大ストレスの中、よくぞ心身ともに病気にならずに乗り越えられたと我ながら感心している。今では1年に1回は必ず帰国できるし、コミュニティも増えたので、寂しいと思うことはほとんどなくなった。せっかく海外にいるのなら、日本で経験できないことを沢山経験して楽しみたい。でも、ホームシックになってみて、日本にいる家族や友人の有難みが分かり、良い経験になったと思っている。私の経験と対処法が、ドイツでホームシックに悩む方の参考になれば嬉しい限りである。

ホームシックになったお陰で、帰れる場所があるというのは幸せだとつくづく感じられるように。無理せず自分の感情に向き合うことが大切だと思います。