ミュンヘンといえば、世界的に有名なビール祭り「オクトーバーフェスト」の開催地である。近年では日本でも、日比谷や横浜の赤レンガ倉庫などで開催されるようになったが、やはり本場はドイツ・ミュンヘンだ。2025年のオクトーバーフェストは、9月20日から10月5日まで開催された。

夫の友人カップルがミュンヘン旅行を計画していたこともあり、約1年前にテントのチケットを手配し、念願の本場オクトーバーフェストを体験することとなった。今回は、テント内部の様子や、チケットなしでも楽しめるエリアの情報について紹介する。
本場のオクトーバーフェストとは?
オクトーバーフェストの起源は、1800年代初頭にまでさかのぼる。後のバイエルン王・ルートヴィヒ1世となるルートヴィヒ皇太子と、ザクセン=ヒルドブルクハウゼンのテレーゼ王女との結婚式が、その始まりである。祝宴をより華やかにするため、当時のバイエルン市民軍の将校が競馬イベントを提案。
これが王マクシミリアン1世に採用され、1810年10月12日に盛大な式典が執り行われた。祝祭は市内で開催され、最終日は草原での馬レースで締めくくられた。この草原は、花嫁テレーゼにちなみ「テレーゼの草原(Theresienwiese)」と名付けられ、現在も会場の正式名称として残っている。ミュンヘン市民はオクトーバーフェストに行くことを「ヴィーゼ(Wiesn)に行く」と表現する。
結婚式の翌年、祭りの継続を望む声が高まり、王室主催ではない新たな運営者として「バイエルン農業協会」が名乗りを上げた。農業展示などを通じて自らの活動をアピールできる好機と考えたのである。
1813年にはナポレオン戦争の影響で初の中止となったが、戦後は私的資金により継続され、1819年からはミュンヘン市当局が正式に主催を担うようになった。上流階級にとっても魅力的な集客イベントであり、確実な収入源として定着したのである。
19世紀後半からは露店や居酒屋の出店が増え、次第に現在のような形態へと進化。2025年の今日に至るまで、地元住民だけでなく世界中から訪問客が集まる一大イベントとなっている。
詳しい情報は、ミュンヘン市のホームページをどうぞ。
会場へのアクセスと注意点
オクトーバーフェスト期間中、ミュンヘンには600万人を超える来場者が訪れる。地下鉄やバスは常に満員であり、会場の出入りにも工夫が必要である。
アクセスには複数の駅が利用可能だが、メインエントランスに近いTheresienwiese駅やGoetheplatz駅は特に混雑が激しい。おすすめは、地下鉄U3/U6のPoccistraße駅からのアクセスである。こちらは比較的空いており、会場敷地内にもスムーズに入場できる。
入場時には簡易な手荷物検査が行われ、ハンドバッグ以上の大きな荷物は持ち込めない。持参した場合は、敷地外のクロークテントで預ける必要がある。ベビーカーも同様に入場不可なので要注意だ。
なお、テントによっては事前予約が必要だが、アトラクションや敷地内の散策は予約不要で楽しめる。
体験レポート:訪れた2つのテント
最初に訪れたのは、伝統的なバイエルン文化が体感できるOide Wiesn(オイデ・ヴィーゼ)。直訳すると「古い草原」であり、博物館のような趣があるエリアだ。入場料は4ユーロで、その場でチケットを購入できる。

ここにもいくつかテントがあり、予約不要の自由席もある。たまたま入ったテントでは、民族衣装を身に着けた若者たちによるバイエルン舞踊が披露されていた。
会場内は満員に近く、活気と熱気に包まれていた。ドイツ料理の大皿と1リットルのビールジョッキが絶え間なく行き交う。ビールの注文単位は1リットルからであり、これを何杯も飲むドイツ人のアルコール耐性には驚かされる。

アルコールが飲めない人向けに、ノンアルコールビールやソフトドリンク(こちらも1L)が用意されている点もありがたい。
次に向かったのは、本命のテント「Poschner(ポシュナー)」。鶏料理専門の店舗が運営するテントである。

アウグスティーナー、レーベンブロイ、ホフブロイといった大手ビアホールのテントに比べて規模は小さく、収容人数は100〜200人程度。騒がしさも控えめで、ウェイターの対応も丁寧。落ち着いて楽しめる雰囲気であった。
料理は鴨や鶏などを中心としたメニューで、すべて店内で調理されているという。味は全体的に塩辛めだが、質は高く満足度も高い。大手テントの多くがケータリングを採用しているのに対し、手作りの温かみを感じる点も好印象であった。
予約した時間は19時から23時まで。長く感じるかもしれないが、実際はあっという間であった。料理の注文に時間がかかり、食事を始めたのは20時半頃。その後は音楽に合わせて乾杯をし、歌い、踊り、肩を組み、まさにお祭り騒ぎであった。
オクトーバーフェストの楽しみ方
名物・乾杯の歌「アイン・プロージット」
オクトーバーフェストで欠かせないのが、乾杯の歌「Ein Prosit(アイン・プロージット)」である。
Ein Prosit, Ein Prosit, der Gemütlichkeit
Ein Prosit, Ein Prosit, der Gemütlichkeit
Oans, zwoa, drei, g’suffa! Prost!
訳すと「さあ乾杯だ、皆が集ったこの楽しい時に。1、2、3、飲み干せ!乾杯!」といった意味になる。
この曲は楽団の演奏中に何度も繰り返し流れ、周囲の見知らぬ人とも一緒に乾杯するのが通例である。一度聞けば口ずさめる覚えやすいメロディーなので、ぜひ現地で体験してほしい。
普段は真面目な印象のドイツ人が、陽気に歌いながらビールを楽しんでいる姿も、オクトーバーフェストならではの光景である。
服装・ディアンドルとレーダーホーゼ
オクトーバーフェストでは、普通の服装でも入場はできる。ただ、女性は「ディアンドル(Dirndl)」、男性は「レーダーホーゼ(Lederhose)」と呼ばれる民族衣装を着用するのが一般的である。
ディアンドルは、エプロン付きのワンピース型ドレスで、胸元の開いたデザインが特徴的。リボンの結び位置によって「既婚」「未婚」などのサインを表すこともあり、文化的な意味合いも深い。
一方、レーダーホーゼは革製の半ズボンで、サスペンダー付きのスタイルが伝統的。バイエルン地方の男らしさを象徴する装いとして親しまれている。
民族衣装は結婚式の際に着用されることもある。
これらの衣装は現地のデパートや専門店、さらには空港でも購入可能で、安価なレンタルも充実している。
アトラクションと混雑時間帯の注意
テントに入らずアトラクションのみを楽しみたい場合は、昼間の時間帯を選ぶのが良い。
会場内には観覧車やお化け屋敷、ジェットコースター、射撃ゲームなどが並び、子ども連れや観光客が思い思いに楽しんでいる。今回は友人と観覧車に乗ってみたが、1人10ユーロ程度と手頃な価格で、上空からオクトーバーフェスト全体とミュンヘンの街並みを一望できた。

夕方以降は飲酒客が増え、場内のゴミも多くなり、歩行すら困難になることがある。酔っ払った人との接触による転倒や、緊急搬送が必要なトラブルも見られるため、夜間の訪問には十分注意が必要だ。また、深夜近くはタクシーも満員でほぼ捕まらない。バスや地下鉄の時刻表チェックもお忘れなく。

まとめ
本場ミュンヘンのオクトーバーフェストは、単なるビール祭りにとどまらず、バイエルンの歴史と文化、そして人々の陽気な気質が融合した壮大なイベントである。混雑やマナーに気をつけながら、計画的に訪れることで、誰でも一生に一度は体験したい祭典の魅力を存分に味わえるはずだ。

酔っ払いの祭りというイメージが強かったオクトーバーフェスト。今回、実際に行ってみて、伝統的な文化と陽気な雰囲気に触れることができ、大満足の1日となりました。