最近、我が家では、週末に近場の静かな場所へ出かけるのが習慣になっている。日常の喧騒から離れたいという思いもあるが、地元にある隠れた名所を探すことが楽しいからだ。
今回は、ミュンヘンから車で1時間弱の場所にある、ベネディクトボイエルン修道院(Kloster Benediktbeuern)を訪れることにした。
なぜ、修道院なのか?
私にとって大切なのは、静かな場所を見つけることだ。アクティブに活動することで気分転換になる人もいれば、静かな場所で自分の内面と向き合うことで、心が落ち着き、リラックスできる人もいる。エネルギーの回復方法は、人それぞれ異なる。
私は、圧倒的に後者だ。仕事が忙しく、心がざわついているとき、街へ繰り出すよりも、静かな場所で五感を使いながら過ごす方が、心の回復につながる。
そして、ドイツで静かな場所を探すのは、なかなか難しい。日本には、公共の空間でも、静かに読書ができるカフェや場所が多くある。一方、ドイツでは、公共の空間で必ずしも周囲に配慮して静かに過ごすことが求められるわけではない。そのため、静けさを保てる空間は貴重だ。
そんな背景もあり、今回は修道院を訪れ、そこで食事をすることにした。
山に囲まれた修道院
現地に到着すると、まず修道院の建物が目に入った。周囲には目立った建物がほとんどなく、山々に囲まれた景色が綺麗。眺めているだけで、自然と心が癒やされていく。

この日は猛暑で、雲ひとつない快晴だった。
修道院の入り口には、瞑想のためのスペースとしてハーブガーデンが設けられている。ラベンダー、セージ、セントジョーンズワート(抑うつや不安感を和らげるハーブとして知られている)などのハーブが、きれいに栽培されていた。
若者のための修道院
ベネディクトボイエルン修道院では、修道会の創立者であるヨハネス・ドン・ボスコの精神を受け継ぎ、キリスト教的な価値観と、将来を見据えた教育を組み合わせている。
若者が自分の個性を伸ばし、責任を持って行動し、社会に積極的に関わっていけるよう支援しているのだ。
「青少年のための修道院」として、教育プログラムのほか、精神的なサポートや司牧的な支援(pastoral care)も提供している。特に、青少年教育と環境教育に力を入れているそうだ。
庭園内の教会には、次のような素敵な言葉が書かれていた。
Komm herein und nimm dir Zeit für dich!
Lass es los, was dir die Ruhe nimmt,
lass es los, was dich so traurig stimmt.
Komm herein, tu deine Sinne, deine Seele auf,
denn dein Leben ist so reich, achte darauf!
中に入って、自分のための時間を過ごしてください。
あなたから安らぎを奪うものを、手放しましょう。
あなたを深く悲しませるものも、手放しましょう。
中に入り、五感と心を開いてください。
あなたの人生は、こんなにも豊かなのです。
そのことに気づき、大切にしてください。
現代のドイツにおいて、教会が果たす役割は、以前ほど大きくないのかもしれない。多くの若者は宗教に強い関心を持っておらず、ここ数年、教会関係者によるスキャンダルの影響もあって、教会を脱退する人も少なくない。
けれども、本当は、どの社会にも、ある程度のスピリチュアルな領域が必要なのではないだろうか。
日本では、困りごとがあると、お寺や神社を訪れて祈祷を受けることがある。それは、必ずしも宗教そのものを信じているということではなく、心の拠り所を求めたり、心の負担を軽くしたりするためでもある。
教会や修道院もまた、人々が静かに自分自身と向き合い、心を休めるための場所として、重要な役割を果たしているのではないだろうか。
カフェで一休み
敷地内には、ハーブガーデンに併設されたカフェとレストランがあり、ゆっくり休憩することができる。

コーヒーとアイスクリームを注文し、木陰でゆっくり過ごす時間は、とても贅沢だった。
カフェの店内では、提携店のハーブティーのほか、自家製のビネガー、シロップ、ハーブソルトなども販売されている。
自然に近い場所でハーブの香りを感じているだけで、少しずつ心が落ち着いていくのがわかった。
おわりに
ドイツで「自分に合った静かな場所」を見つけるのは簡単ではないけれど、こうして歴史ある修道院が、自然や教育、そして訪れる人の憩いの場として開かれているのはとても魅力的だと感じた。
美しい山の景色、ハーブの香り、美味しいコーヒーとアイス、そして心に染みる言葉。思いがけず五感すべてが満たされる週末のショートトリップとなった。

